横浜市の 大浦 瀞司 様よりさまざまな情報をいただきました.ありがとうございました.

(30 Jan 2011)「0.01g 単位で計量可という電子秤を入手し、《中略》アームの針圧目盛の精度を見ようと《中略》秤で計りますと、《中略》誤差 0.02g 前後で目盛の表示に 0.6g を加算した数値でした。」「関係記事の針圧値を訂正し、一部は文の訂正もしてみました。」
ところが,
(19 Apr 2011)「その後ディジタル電子秤は、カートリッジの磁石からの磁力線の干渉で正確な表示をしない場合があることを知り、2通りの方法で試験して見ました。《中略》磁気干渉なしでは針圧目盛《中略》に対し、秤の表示は《中略》殆ど誤差がないのです。この試験結果から、1月末以後の針圧表示値訂正は誤りだったことが明白なので、針圧の表示値を以前の数値に戻すことにしました。」
(1/30) 文の訂正1(を含む段落),(2/6) 訂正2訂正3(削除),(2/11) 訂正4訂正5訂正6,(2/18) 訂正7訂正8

最初にいただいた初期の製品の情報と M-21 の針圧について(5 Nov 2003, 30 Jan 2011).

たしかラジオ技術誌のはずですが、塚本氏が最初にサテンカートリッジを紹介された記事を読んだ記憶があり、モノーラルの M1 に続けてステレオの M2-45D を説明されていました。M2-45D はとんぼの羽根のように左右のコイルに伸びるアーマチュアが、胴体とつながった中心に針先が植えられていて、3個の細いゴムダンパーで支持されており、構造的にデリケートで壊れ易いと後に他の人から聞きました。これを改良して、使い易くしたのが M3-45 で、登場当時はニートにも OEM で供給されていました。

M2-45D がちょうどビクター MC-L1000 と似た T 字形の針先開口部だったのに対して、M3-45 は形の上では、抜き衣紋の和服の襟もとのような逆水滴形 ( ? ) の独特の形をした開口部から針先が出ていました。(その後いただいたお話.17 Jan 2004)

 《中略》
1980 年に M-21 を入手し、《中略》、ある時、メーカー指定よりも軽い針圧の時に、いままでまったく聴いたことのない柔らかく澄んで伸びる高音域の広がりがスピーカーから流れ出て来るのにびっくりして、《中略》。今使っているのは、3 個目となる M-21 ですが、いままでに 2 個の M-21 をいずれも右チャンネル側のアーマチュアのコイルにつながる部分で破断させてきた経験から、インサイドフォースキャンセルの働きを最小とし、針圧 0.8 グラム付近で使って十分なトレース能力を感じています。
は大浦様の足下にも及びませんが,M-21P は気温やレコードによって 0.8g と 1.2g を使い分けています.たいていのレコードは 0.8g で十分にトレースしてくれますが,レコードによっては大音量のボーカルでビリつくことがあります.
アーマチュア破断の件について質問しましたところ,さらに有意なお話をいただきました(8 Nov 2003, 30 Jan 2011).
M-21 に低音部の充実感を出すため、ヘッドシェル部重量を約 32g まで重くして使っています。シェルリード線をオルトフォン超純銀というのに変えると、通常サテンに持っているイメージを覆すような、低域から高域までたっぷり倍音のついた豊かな音を聴くことが出来る感じなのですが、インサイドフォースキャンセラーの目盛をメーカー指定にした場合には、どうもヘッド部重量と相俟って効きが強すぎ、右側コイルにつながるアーマチュアの細い根元にずっとストレスがかかり続けるのだと、最近考えています。いままで 2 個の M-21 はどちらも右側コイルのそばで金属疲労的に破断が起きて音が出なくなったので、
 《中略》
インサイドフォースのキャンセル目盛を最小の 0.5g まで下げると、聴感上でも管弦楽の右の木管・金管楽器の音がのびのびと聴こえ、右側でシンバルが鳴る時もきれいに抜ける感じを受けます。サテンの針圧調整は 0.01g 単位でベストの点を探って行く必要がありますが、私はパンタグラフ形アーマチュアの左右の動きが同等の自由度で動作した時に、塚本氏が取説に書かれたように、演奏家の気迫が見事に伝わって来ると考えていますので、これを実現するには針先の浮き上がりが起きない範囲で最小のインサイドフォースキャンセルにセットした方が良いのだと思っております。現在約 0.8g で例えばアリア「星も光りぬ」のテノールが声を張り上げる箇所でもビリ付きは発生しません。かといって、キャンセルゼロではあきらかに針先が溝から跳ね上げられるので、キャンセルは必要だと思います。
 《中略》
音溝の微細部分まで針先がトレースして音を拾って来る能力ははるかにサテンの方が高く、これを十分に発揮させるためには、アーマチュアにかかるストレスの偏りをなくして、左右のコイルが自由度の高い動きをするように、比較的軽い針圧・キャンセラー圧にするのが良いように思います。これはサテンの発電機構が左右のコイルに伸びるアーマチュアのバーとカンチレバー支点の 3 個所にかかる力のバランスを取る必要があることを意味し、音を聴きながら各種のレコードをかけてゆくとベストの点がつかめると私は思っております。《中略》。レコードで聴く高弦の倍音はサテン《中略》はまぎれもなく違っていて、《中略》サテンは可聴域以上まで楽々と再生して豊麗な弦音のひろがりを室内に放射しているように感じています。これは他にない美音と思います。
 《中略》
前述の理由で一般にサテン M-21 は右アーマチュアにストレスのかかった状態で使われているケースが多いのではないか、というのが私の想像です。現状でのトレース能力はロクサン・テストレコードというドイツプレスの盤で最大振幅 100 ミクロンの所でもトレースしました。ただ 80・90 ミクロンの部分で多少音が震えたので十全とは言えないかと思います。
さらに,冬のビリつき対策から針先とレコードのケアまで多岐にわたって,有意なお話をいただきました(13 Nov 2003, 4 Feb 2011).

過去にサテンをお使いの方から温度に敏感で冬などビリ付くと何度か聞いたことがあります。当時は M-21 の取説の説明通り適正な動作点ではトレース能力が最高となり、温度に左右されないというのを信じて、ビリ付きの解消は針圧の微調整などで対応して来ましたが、最近のこのページでの太田さんの試験結果により、使用時の周囲温度が第一の重要ポイントと思います。

意外に効くのがアームの準備体操で、その日最初にレコードをかける前に、アームを動作範囲のなかで左右に5往復ほど動かし、上下に細かく5回位ゆすぶってから盤面に乗せると、動きの渋さが取れて初めから滑らかな音が出て来る感じなのです。これはアーム可動部のウォームアップな訳で、私は同様にターンテーブルも数分ほど廻してからレコードを聴くようにしています。

交換針は最初の交換時に S-21X のラインコンタクトにしてから、微細音の再生が違うのでずっと S-21X を使って来ました。針先の清掃には今は一切液体を使わず、米ディスクウォッシャー社の針先クリーナー( 1 cm 径位の円形に短い強い毛先が高密度で植えられたもの ) にアームレストから外した針先を乗せ、静かに前に引くだけで、大きめの付着物は取れます。この後、眼鏡拭き用の東レトレシーを折りたたんで片端を持ち、同様に針先を後から前に撫でるようにしています。いずれの場合もアームは針圧以上の力に対しては逃げてしまうので、過大な力を与える心配はありません。この完全乾式の清掃をするようにしてから、針先チップの脱落事故はなくなりました。

レコードは1日に1回しか針を通さないようにしています。同じ音溝に続けて針先を通すと、針の通過で少し軟化したビニール表面が回復しないうちにまた擦られてダメージを受けると聞いたのでこうしていますが、《中略》、この配慮をしているとレコードの寿命が非常に長いことが判り、2 〜 30 年は音質劣化は感じないといえるように思います。盤面の清掃は、今はブラシ類は使わずにナガオカのローリング152という粘着ローラー型のクリーナーで、聴く前と後に盤面に浮いたホコリを取るだけにしています。溝の中のゴミは針先につくか外へかき出されるかで、あまり音の上には影響がなく、いわゆるスクラッチノイズはビニール素材から表面にしみ出して結晶化する析出物のせいだという江川三郎先生の説をその通りと思っている者です。この析出結晶が古いレコードにはつきもので、片面ばかり聴いているレコードの裏面などもたまに聴くとパチパチいうようになっていますが、これの除去は今のところレイカ・バランスウォッシャーによるクリーニングが私の所では最も効果的でした。新盤同様までは無理だとしても、かなり耳障りでなくなります。

サテンのトランス STD - 1 について書きますと、サテンの取説に出て来る電磁制動の効果が知りたくて手に入れたので、線材等の進歩で広帯域化した現在の再生音と果して適合するかどうか疑問は持っていました。結線して音を聴いてみると中音域ではあきらかに制動の効果があり、輪郭のはっきりしたピアノ音などが聴けますが、高低両端ではやはり帯域の伸びが抑えられた感じがあり、総合して音質が向上したとは感じられませんでした。
に数時間ほど M-21P を使用していた10年ほど前までは,特に冬にビリつくことはなかったのですが,その後レコードを聴く機会が減り,冬のビリつきを経験しました.この頃は,フレキシブル・ジョイントになる特異針圧でトレース能力が最高になるという塚本社長の説明を信じて,また,0.9g まで増やすと再生音が良くない方へ変化すると感じた経験から,ずっと 0.8g 〜 0.85g で微調整を繰り返していたのですが,ある時,思いきって 1.2g にしたときの結果が良かったので,0.8g か 1.2g で使用しています.もっとも,気温が低いと針圧で変形した音溝が戻らないと聞いていますので,冬は暖房でレコードやカートリッジが十分あたたまってから,レコードを聴くようにしています.サテンの電磁制動アダプタ SR-60 は 60Ω の抵抗をカートリッジに並列に入れていますが,塚本社長から 100Ω の方が良いと伺いました(M-20/21 の場合?)ので,プリアンプの入力に 100Ω を並列に入れています.
 その後 SATIN カートリッジの超高音域再生能力などに関するお話をいただきました(26 Dec 2003).SATIN カートリッジは学術的にも価値があるのですね.

ずいぶん昔のことですが、《中略》日比谷公会堂のN響演奏会《中略》ハイドンの交響曲の弦楽合奏でヴァイオリン群が一斉に鳴る時、「シューッ」とか「サァーッ」と聴こえるような弦楽の高次倍音がホールに広がって来るのを初めて聴いて、《中略》。だいぶ後になってLPレコードを聴けるようになってからも、電気音響ではこの倍音は聴いたことがなく、しかし私の中にはいつまでもこの記憶が残り続けていたわけです。私が1992年にサテンM21で聴いた音が、正にこの弦の倍音を十全ではないにしても再生してくれたので、これは私にとっては電気音響から初めて聴いた弦楽合奏の高次倍音の再生音でした。

《中略》大橋 力先生が熱帯雨林の自然音に可聴域以上の超音波が豊富に含まれており、これを聴くことでストレスが取れたり心が癒されたりするという説 1) を発表されたのを知り、またサテンというカートリッジが非常に共振周波数が高くてレコードからも超音波領域の音を再生する能力があると発言されているのを新聞記事で読んだ時は、全く同感だと感じました。

《中略》、サテンの再生音と他の製品の再生音との決定的な違いがここにあり、それは聴き取ることが ( 不思議にも ) 出来るのだと感じています。こういう領域まで再生する能力を実現したカートリッジはおそらく世界でも他になく、サテンは日本の電気音響技術が到達した見事な高峰の一つであると私は思い込んでおります。(11 Dec 2003)

塚本社長のオリジナルな発想は、狭い強磁界の中で密度の高いアルミリボンの巻線を磁束に直角に動かすという、高効率の発電機構を創り出して以来、いつも進歩を続けていて恐れ入るばかりです。サテンの発電効率の高さは、各種カートリッジの中で発電機としては最高と聞いています。
大橋先生とコンタクトが取れました(29 Dec 2003).
お問い合わせの記事は、『stereo』(音楽之友社)2002年7月号掲載のオノセイゲンさんとの対談「CDの音は脳深部の活性が落ちる!」ではないかと思います。《中略》。その後、サテンのカートリッジについて《中略》分析した結果を、今年10月に上梓した拙著『音と文明―音の環境学ことはじめ』(岩波書店)の480頁周辺に少し詳しく示しています。

大橋先生は私のホーム・ページに掲載しています上田先生とご一緒に,研究会「ゆらぎの科学1」でご講演されています.

1) 大橋先生が発見された「ハイパーソニック・エフェクト」(非定常なゆらぎに満ちた可聴域をこえる高周波を含む音が脳波のα波パワーを増強し,脳幹や視床を含む脳基幹部を活性化させる生理反応・心理反応.この効果を導く音を「ハイパーソニック・サウンド」)

カートリッジ針先の左右の傾きと補正方法,および音質確認に適したレコードについて(1/12/04).

ビリ付きについて書いた時に針圧の微調整等と書きましたが、この中に針先の傾き調整が入っている訳です。普通はカートリッジ本体がレコード盤面に対して垂直であれば音溝に対しても同様に垂直に接している筈ですが、過去に私が経験した交換針の中には僅かに傾きのあるものがあって、カートリッジ本体をこれまた僅かに傾けて補正したケースがありました。ラインコンタクト針はこの角度誤差には非常に敏感で、左右どちらかのチャンネルにビリ付きまたは針先の浮き上りが出やすくなります。音を聴いてこの状態に気付くと、針圧やインサイドフオースキャンセラーの調整をすることが多かったのですが、最近はこれは誤った調整手順で、まず第一に針先の左右方向の傾きを出来るかぎり音溝に合わせないと正しい調整ができないと思っています。

ルーペで針先を覗くと取り付けた針に傾きがあるかどうかある程度判ります。アームに装着後《中略》、ターンテーブル上に置いた薄い鏡の上に針先をおろし前方から見て本体の垂直が出るよう調整します。これで音を聴いて異常がなければよい訳ですが、聴き慣れたレコードの楽器音の左右差、ヴォーカルの子音が後を引くときに左右のどちらに向かって流れるか、などに注意するといつもと違うのに気付くことがあります。じつはここからが微調整の領域で、ヘッドシェルに傾き調整機構があるものは楽かも知れませんが、《中略》シェルをゆるめて少し傾けては締め直して鏡で見ることを繰り返す羽目になります。この辺の調整になるとゲージなどはない訳で、手先の感覚に頼るカンの領域の作業になってしまいます。私もこのことに気付いたり調整を念入りにしたりするようになったのは最近です。この微調整がうまく行けば、左右チャンネルの音質差が感じられなくなり、針圧の増減等もある範囲の幅を持つようになると感じます。これでビリ付きが解消する場合もあると考えています。

《中略》シェルコネクターを待つアームでは、シェルをゆるめて傾ける際の注意点として、シェル側とコネクター側の各4個の端子が離れるまでゆるめる必要があり、すこしゆるめただけでシェルを廻すとコネクター側のピン端子を曲げてしまうことがあります。これは接触不良の原因となります。

上記の調整が適切な範囲に入れば、針圧を多少増減して傾向の違う音質で聴くこともできます。ご存じのように、重めの針圧では音像が鮮明な傾向となり、軽めの場合は音場のひろがりがよく判る感じの音質になります。《後略》

私が針の交換後などに音質の確認用にいつもかけるLPがあり、それは「コンチネンタルタンゴのすべて」・「アルゼンチンタンゴのすべて」という各2枚組のレコードで、日本ビクターの79年発売、世界ポピュラー音楽全集のなかの2点ですが、このレコードで聴くタンゴバンドのヴァイオリンの音色に、サテンの高音域特性の伸びがよく出ると感じていつも使うようになりました。2枚組3,000円という価格からしていわば廉価盤で、特別ハイファイ録音などと謳ってありません。原録音は海外のものもあり、私は録音担当者が意図したのでなく、性能の良いマイクロフォンが原音の高い成分を拾ってレコードに入って来たのだろうと考えながら聴いていました。

ところが大橋先生の本によれば、1970年代の日本ビクターでは現場のミキサー、カッティングエンジニアたちが、超可聴域まで伸びる性能のカッティングシステムで仕上げたレコードの音の美しさを体験的に身に付けており、実際にこれを生かしたレコードづくりをしていたと述べられていたのです。私はなるほどそうだったのかと納得するとともに、黙ってこういう素晴らしい仕事をしていた技術陣に敬意を持ちました。

最近、《中略》アルゼンチンタンゴのLPを数枚入手し、改めて上記の点に注意しながら聴いてみると、70年代の日本ビクターのプレスによるものは他社の盤と違った音を持っていて、大橋先生の記された通りだと感じています。とりわけ、日本録音・日本プレスのものにこの特徴が明白と思います。もちろん、これが判るのはサテンカートリッジの性能があるからという訳です。
M-20 の「ビリつきについて」に寄せて,以下の記事をいただきました(11 Apr 2004, 10 Feb 2011).

サテンカートリッジで起きるビリつきに対しては、まず最初に周囲温度を23℃前後にする必要があり、カートリッジ本体がこの位暖まっていないと、本来の性能が十分発揮されないようです。次にアーム関連の調整になりますが、第一に針先の傾き、第二にアーマチュアにかかる力の不均衡です。この他にアーム本体の問題が考えられますが、これについては後述します。

針先の傾きは、ラインコンタクト針では特に敏感なので、注意が必要です。針交換時にシェルをアームから外し、交換針の装着が正しいどうかを確認するため、10倍位のルーペで上向きのカートリッジを正面から覗いた時に気付きました。交換針ホルダー、装着用の溝、SATINロゴのTの縦線、ボデーの垂直線などに対して、針先の三角錐の ( 仮想 ) 中心線が僅かに傾いているわけです。これはシェルコネクターの遊びの範囲内の傾きなので、幾度か締め直しをしてレコード面への正しい垂直を出すのですが、ごく僅かの傾きなのでゲージ等がなく、苦労するわけです。アームをアームレストに固定し、ヘッドシェルの指掛けの先端の高さをプレーヤーボードにスケールを垂直に立てて計ると、この位置での 0.2 mm 位の上下差がレコードをかけて聴感上で聴き取れるので、これは第一に必要な調整だと思っています。

これを丁寧に決めることでいくつかのレコードでビリつきや、原因不明の音の濁りが取れました。針先の傾き調整で改善されるのは、大きなビリつきではなく気が付かずに聴いてしまう場合も多いようなレベルの付帯音です。たとえば、中央でのトロンボーンソロの音に当然のようにビリつき音がついて聴こえていたのが、ビリつかなくなり、女性合唱曲で左側ソプラノ群の斉唱時の濁り音が取れてきれいに澄んだ合唱に変わったなどです。モノーラルレコードの男女デュエットの声が歪んだように聴きずらかったのが、ずっと聴き易く変わったケースもありました。この変化は他のレコードでもこの方が正しい再生音だとすぐ判るように現れ、音溝の微細部までよく拾い上げた感じの音になるので、判り易いと思います。

第二の、アーマチュアにかかる力の件ですが、SATIN の M-21 取説の裏表紙にアーマチュアの図(カタログ表紙の図)があるので、これを見ながらだと判りやすいです。コイルが動いて発電する時は、中央の固定部分からコイルの下辺に斜めに伸びている支持腕 ( ? ) の弾性変形の範囲で動きます。アーマチュア全体は正方形のパンタグラフ形をしており、下端のカンチレバー側からの音溝トレース時の力が伝達ロスなしにコイルに伝わるためには、この正方形がひどく変形することなく保たれている必要があるわけです。

通常のインサイドフォースキャンセラーの効かせ方は、私の考えでは横向きの力が強過ぎ、パンタグラフの正方形を横方向に絶えず押してしまうのです。インサイドフォースキャンセラーの働きゼロとして、1.0 g 近辺の針圧で音を聴くと、針先が溝から跳ね上げられてしまうのが判ります。この時キャンセラーの働き最小のレベルでこの跳ね上げが収まれば、針圧を少し増すなどで通常のトレース状態にすることができると私は思うのです。この状態で使い続ければ、( 温めるのも良いと思いますが ) 多少歪みの残っているアーマチュアでも復活してくれると私は考えており、中古で入手した M - 21 をこの状態で使っています。

この正方形パンタグラフがどちらかへ歪んだ形になると、左右の発電コイルの一方は上に押し上げられて上記支持腕の弾性変形の範囲の端にかかってしまい、反対側のコイルは下に押し下げられて、音溝の底の部分にバネの力でついて行くだけのストロークがなくなってしまうのだと考えています。これは音のビリつきになって現れるはずです。

私はこのパンタグラフは針先が音溝の底の部分に接する時に、正方形が正しく保たれ、弱い力で接している状態になるのが理想だと思っています。この時に偏った歪み方をしていなければ、二つのコイルは音溝の振幅に対し、最大のストロークを持つことになると考えています。この状態にするには、針先が溝底から跳ね上げられない範囲で、キャンセラーの効きを最小に抑え、針圧を軽めにして再生音で確かめて行く必要があります。

サテンのアーマチュアは銅色をしていますが、軟銅ではなくベリリウム銅(M-14 のアーマチュア)と聞いています。上記の弾性変形はアーマチュアの平面方向の変形なので、通常の板バネが面に垂直な方向に動作するのに比べて不利かと思います。従って、ここを回復不能にまで歪ませてしまうとトレース能力は落ちてしまうわけです。それでサテンの使い方がデリケートなのかも知れません。

アームについててすが、上記のようにサテンカートリッジは金属バネの弾性で音溝表面に追従して行く構造のため、振動部全体の質量は一般 MC 形より大きく、カートリッジボデー、ヘッドシェル、アームが受け止める振動は大きい方なのだと思います。それで軽針圧で動作する割には重量級対応の強固なアームを使う必要があると考えています。

なお、グリースの硬化や消耗は私は確認していませんが、中古の M-21 でギャップに繊維の屑が入り込んでいたのは経験しました。これは刷毛の先で取り出せて異常なく使えました。鉄粉はレコードプレーヤーの上に舞っているとは、想像しにくいです。私の使っている粘着ローラー形クリーナーのローラー部をときどき石鹸で洗いますが、たしかに繊維だけでなく無機質のホコリ・汚れがついており、ごくまれに光るものがついていることはあります。

「ビリつきを考えるには良い実物見本」として,壊れた M-21 を分解して送っていただきました(4/19/04).

興味深い内容の広告が載った1976 年の雑誌を送っていただきました(4/27/04).

AR-1 アームのページの「ダンプされすぎる」記述に関連して,以下の記事をいただきました(29 Aug 2004).

塚本社長の意見として、サテンのアーム登場の前にはオーディオクラフトのアームを推奨され、クラフト純正のオイルよりさらに制動を弱めるためのオイルを頒布されていたと書かれていますが、《中略》SME3012 アームのフルイドダンパーによる制動を弱めるとどうなるか試して見ようという気になりました。

3012 アームは根元の部分に油槽の中に入る羽根を取り付けるのですが、この羽根が大中小の3種付属していてカートリッジによって使い分けるように指示があります。いままではカタログのコンプライアンス値から推奨の中型をつけていたわけです。この羽根の取り替えはオイルが減ってしまうので、あまりたびたびは出来ません。今回慎重に制動量最小となる小型の羽根に交換しました。

その結果ですが、私には一聴して違いが判る位に高音域側の再生音が向上して、弦楽合奏のシューッという高次倍音が前よりも良く出るように変わりました。再生音全体の重心は上った感じとなり低音部の厚味や重量感は薄れますが、この高音域再生音のもたらす快感には抵抗出来ない魅力があって、とても元に戻す気にはなれません。 どの楽器の音も表情豊かになり、殊にヴァイオリンの音はきつさや鋭どさが柔らげられて聴き易い漂うような鳴り方に変わりました。音が鳴り出すと、部屋の空気がしんと静かになるような感じです。低音側の調整をなんとか工夫して、この再生音を生かすつもりでいます。
(後日談:その後サブウーファーの上限周波数・音圧レベル等を調整し、聴き易いバランスにすることはできました。)

そういえば、フルイドダンパーの装着以前にはときどきこの感じを持ったことがあったなと、サテンこそ最高と感激した頃を思い出しました。どうも低音域側の厚味や重味に気を取られて、この音の再生能力低下に気が付かなかったような気がしています。 これはほんの僅かな違いかも知れませんが、私にはレコードの魅力ここにありと思える位なので、改めてサテンカートリッジの再生能力の高さを感じながら、各種のレコードを聴き直しているところです。自分の装置は相当完成度が上がったと思っていたのですが、まだこういう向上ポイントがあるのに驚いています。
反りのひどいレコード盤で断線した事例(12 Dec 2004).貴重なサテンが壊れないよう注意しましょう.

《前略》英国中古盤の周辺部の反りが激しく、針先がジャンプしてしまうので、《中略》軽量シェルに楕円針の組み合わせでなんとか聴けないものかと、工夫して見ました。これは結局駄目で《中略》、ジャンプしていたカートリッジを付けて他の盤を聴こうとすると、片側チャンネルからはハム音が出るだけで、音が出ません。《後略》

後で思い返すと、ジャンプしながら音飛びをしていた時間は2〜3分以内だと思いますが、私の様に重量シェルで(計 32 グラム)使っている場合はジャンプ後の落下時には加速度も加わって強い力で盤面に叩き付けられる状態になったのだと考えられます。アームも繰り返しの分銅作用をして力を強めた可能性があります。多分発電コイルの付近で断線していると想像しています。

このことから、ゆるやかな盤の反りは別に問題になりませんが、急峻な盤の反りはヘッド部の重い場合には致命傷をもたらす可能性があるので、すぐにアームを上げてダメージを避ける必要があると ( 気が付けば当然の話ですが ) いえます。

 《中略》

いま針なしの安価で入手した M - 21 を使用中で、僅かなビリ付き状の付帯音を取るために針先の傾きと針圧の最適点を探して試行中ですが、約 10日目の今日になってほぼ調整完了の感じとなりました。聴感上は上記の旧使用品とまったく変わらない感じです。
軽針圧の方が聴感上良い音に.そして,コンピュータなどの電源は切りましょう(2 Mar 2005, 10 Feb 2011).

まず針圧の件ですが、メーカー推奨値より軽い 0.75 g 前後で何故良い再生音と感じられるのか。この理由を考えて見ましたが、いまのところでは、これは高域共振をあまり制動しないで高域に向かって上昇する再生特性で聴いた方が高域端の音がなまなましく表情豊かに聴こえるのではないかと考えるようになりました。針圧が軽い方がカンチレバー等への制動は弱まると考られるわけです。

前にオルトフォンの設計者があるカートリッジの開発中の経験として、特性をとると高域にピークが出るが、これを制動しないほうが聴感上良い音になるのでそのままにしてある、と発言したのを雑誌で読んだ記憶がありますが、これと同じことを感じているのかなと思います。そして私の年齢では当然聴覚の劣化が起きている筈ですが、高域端の伸びの有無は明確に感じられるので、これは訓練による適応の賜物とでも考えて、まだまだ LP の音は聴いて行けると意を強くしております。

そこで一部のレコードで起きるトレースの不安定は未解決ですが、大編成のクラシック管弦楽でビリつき等のない再生音が得られればよしとして聴くことにしています。その時の針圧が いつも 0.75 g 弱ぐらいに決まってしまうわけです。

《中略》いままでは同室内のパソコンをスリープ状態にして聴いていたのですが、たまたまパソコン系の電源を全部切ってレコードを聴いた時に、見違えるほど音質が向上したので驚きました。
《中略》
音質の変化は低域から高域まで全体にわたって感じられ、低域の切れ、弾み、力強さと高域の微細音の再生の両方が向上しました。楽音と周囲の空気感が前よりもはっきり分かれて聴こえる感じです。

《中略》前から、エアコンは切り蛍光灯は使わずに白熱灯だけの照明にしていたのですが、パソコン電源の見落しは不覚でした。

《中略》SP 盤からの復刻で《中略》歌の間奏部分にミュート付きトランペットが悲しげな旋律を吹くところがあり、私にはこれが印象的で惹き付けられておりました。
《中略》
この LP で聴くトランペットの音色が《有名な外国製 MC カートリッジ》で聴くと、いかにも古いといった感じでブリキ製のラッパでも吹いているような安っぽい音にしか聴こえません。SP 盤のレンジの狭さがそのまま出てくる感じです。ところが、M - 21 で聴くと《中略》歌声がなまなましく眼の前に現れるのと、後ろのトランペットがレンジの狭さの中でも心情を伝える音色で吹かれるので、これに打たれるわけです。《中略》サテンのカートリッジにどうしてもこだわらずにおれない理由のひとつです。

とくに3段落目は同感で,少しのエラーのために全体の音質を犠牲にするのは考えものですね.まさに,少しの大振幅信号と多数の小レベル信号,M-117 のカタログにある「なぜ、0.001ミクロン(ミリミクロン)レベルの再生が必要なのか。」ですね.

レイカ・バランスウォッシャーの使い方(11 Nov 2005).

基本的には説明書の通りにクリーニングするのですが、私はA液の方を多く使うやり方なので、いままでにB液を3本に対してA液を4本使いました。最初に、ターンテーブルマットなどの上に LP を置きますが、自分が良く聴く面は後にしてあまり聴かない面から処理します。A液を盤面に滴下したら、ビスコ33 で全体に行き渡らせます。この時、盤面全体が液で濡れた状態になることが大事で、溝の中にA液を行き渡らせる訳です。ビスコ33 は四つ折りで包装されていますが、これを一度広げて縦横それぞれ三つ折りとし、これをさらに折って使っています。この方が溝の中への喰い込みがいいと思うからです。

LP のレーベル面を左手で押さえ右手にビスコを持って、盤面の外周側から同心円方向に溝をこする訳ですが、説明書の通り溝の感触が手に伝わってくる感じがあります。液が十分に溝を濡らしている状態で溝の中をこすることが重要で、室温による蒸発などで盤面が乾く時は液をさらに追加して濡らします。LP の一面を大体6分割した面積位ずつ処理しています。即ち6回 LP を位置替えして一面を完了と言う訳です。こする方向はなるべく針の通過方向と逆に右手を引く方向に力を入れるようにしています。

スクラッチ音の原因は、よく言われるマイクロダストとか埃などではなくてビニール表面に滲み出してきて結晶を作る素材からの分泌物と思っているので、A液を十分に注ぎかけるのはこの結晶にしみ込ませて表面から取れやすくするためと考えています。この結晶が LP によってはかなり硬化している場合があるようで、1回のクリーニングでは取りきれず、間を置いて3回程繰り返しているものもあります。そこでA液による濡らしと盤面磨きの時間は 10 〜 20 分程度をかけてゆっくり行っています。

ここまでの作業でビスコが汚れれば、広げて折り直すなどして新しい面を出して使いますが、汚れが見えるほどのひどいものは殆どありません。ビスコは相当濡れてしまうので説明書のようにこれで盤面を拭いても濡れたままですから、私は別に用意した乾いたビスコでざっと拭き取ります。

それからB液を全体に振りかけてA液の時と同じ動作をしますが、今度はこする動作の強さよりも全面均一に行き渡らせる方に重点を置いて、A液に対するB液の中和作用を確実にさせる訳です。この後さらに別の新しいビスコでB液の拭き取りをしますが、これはなるべく拭き残りのないように、全面を説明書通り反時計方向に拭き取ります。どうもこの時の拭き取りで盤面の汚れがぬぐい取られるようで、たしかに説明書通り盤面の光沢が戻って来ます。

これで1面が完了で盤を裏返して次の面で同じ処理をする訳ですが、今度はビスコが濡れているので、A液B液共に振りかける量は少なめで済み、盤面へのなじみも良くなっています。

処理完了後にあまり時間をかけて乾燥させず、2〜3分後にレコードプレイヤーに載せて針を通すと、多くの場合に盤面上に白い結晶粒が針に掘り出されて浮き上がって来ます。これは結晶が液を吸って膨潤したためと考えられるので、よく聴く面を後回しにしたのはこの効果を狙った訳です。

A液用のビスコとB液用のビスコは必ず別のものとして、濡れた方は LP 1〜2枚で捨てています。拭き取り用に使った方も2枚ある訳ですが、この方はあまり濡れていないので繰り返し使っています。
針圧再考(ポピュラー・レコードのビリつき)(17 Nov 2005, 16 Feb 2011).

今までは軽針圧一辺倒で、0.75 g 前後が最も良い再生音が得られると云ってきました。このことは全く変わりませんが、これが主としてクラシック管弦楽の LP にはあてはまるのですが、同じ設定のままでポピュラーの男性ヴォーカルのレコードをかけるとどうもビリ付きが発生する場合が多いのです。針圧を多少重めにした位では完全にビリ付きが取れないことが多く、1.0 g 増しの 1.75 g 程度まで増加してビリ付きがやっと解消したこともありました。 M - 21 の取説には、「2.5 g まで使用できます」と書かれているので、1.8 g 位は安全な使用範囲内と思います。  

これがきっかけとなって、各種のレコードを針圧を変えながら聴いて行くことになり、その結果、一定の針圧で多くのレコードに対応して行くのは無理がある、と考えるようになりました。

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(23 Apr 2006, 16 Feb 2011)その後の試行の結果、M - 21 の良好動作範囲は 0.75 g から 1.75 g までのかなり広い範囲にわたっていて、LP の音溝の状態に応じてこの範囲のどこかに最適点がある、という結論となりました。

これに対応して、アームの針圧調整部を操作して針圧を微調するのは結構面倒なので、ヘッドシェル上の針先真上の位置に載せる形の付加錘を手づくりしました。重量 0.2g、0.3g、0.4g、0.5g、0.6g の5個を用意し、アームの針圧設定は 0.7g に固定したまま、この錘の交換で針圧の微調をしています。

レコードごとに 0.01g 単位の針圧微調節とその周囲温度への依存(18 Feb 2007, 19 Apr 2007).

《前略》さらに、より細かい調整の必要を感じたため、 アームのパイプ上に薄いスポンジをはさんでスライドする紙製の輪を取り付け、これに3 mm 用くらいのナットを錘として接着し前後に動くようにしました。このアーム錘のストローク 70 mmで、アームの針圧目盛約 0.2 グラムの変化になるように合わせてあります。

さて、その結果ですが、このアーム錘の 7 mm 程度の移動で再生音に違いが感じられるのに驚きました。ピアノ、ヴァイオリン、女声。オーケストラの弦などで判りやすいですが、他の楽器でも鳴り方の違いが出て来ます。

《中略》

手許にある LP の多くがそれぞれに最適ポイントを持っていて、曲種や楽器ごとにまとまるというものでなく、かなり広い範囲にばらついているのが判ってきました。メーカーの違いともいえない感じで、一枚ごとにかけてみるしか確かめようがないというのが実感です。

《中略》

先日 M - 21 の取り替えをして、《中略》この別の個体にも上記の最適ポイントがそのまま当てはまるので、個体差は無いといってよく、サテンが精密で完成度の高い製品であることを再確認させられた感じです。《後略》

(19 Apr 2007)《前略》3月から4月にかけて、同じLPを数回繰り返し聴くことがあったのですが、この日には音調が今までと違うので、針圧の設定を変えて軽くしてみると、聴きなれた再生音が戻って来ました。

4月8日はこちらでは急に暖かくなった日なので、3月12日に適正と記録した針圧値より、約 0.2 グラム少ない針圧で再生音がほぼ同一というのは、周囲温度の変化によるものとしか考えられず、それからいくつか他の LP も出してかけて見ました。

その結果は、全体にどれもが前に適正とした針圧値より 0.15 〜 0.2 グラム軽くして聴くことが可能となっていて、

《中略》

これからは、この気温への対応に留意して LP を聴く必要があるということになったわけです。少しの温度差に敏感に反応するのではないと思いますが、10 ℃ 以下と 20 ℃ 付近とでは上記程度の違いが出てくると思っております。《後略》

M-21 のカタログで針圧は「一度調整すればそれは温度やレコードによって変化はしません。」と合いませんが,これは「推奨針圧附近で完全フレキシブルになる特異針圧」に当てはまり,特異針圧以外では別なのでしょう.取扱説明書にも「ビリつく場合は(レコードかアームに原因のある場合があリます)針圧を大きく。最大値での常用は無意昧ですが 2.5g まで使用できます。」とあります.
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