ビリつき波形

M-20 を入手(今はなきニノミヤ USED MART 吉祥院店)しましたので,テストを兼ねて気温の低い冬場にビリつくときの波形を調べてみました.

図の時間軸方向の大きさ:441 dots = 0.01 秒 と 221 dots = 0.005 秒
テストレコード:CBS STR-100 Side A, Bands 1A and 2A (Sweep Frequency)
測定日:2004 年 4 月 4 日(最高気温 9.4℃ 雨)
(a) 300Hz
(b) 350Hz(f) 350Hz (32℃)
(c) 400Hz(g) 400Hz (32℃)
(d) 1000Hz(h) 1000Hz (32℃)
(e) 1400Hz

図1.Left Channel 波形の例;(a)-(e) 14℃, (f)-(h) 32℃

針圧は 1.65g(推奨値),32℃は M-20 をホームコタツ(テーブル形式)で温めました.ビリつくのは約 350Hz-1300Hz の間だけで,温度を上げるとなくなります.(d), (e), (h) の出力が小さいのは,テストレコードが 40-500Hz では constant amplitude,500-20kHz では constant velocity のためです.ビリつきは耳で聴いてもよく判ります.
(a) 300Hz
(b) 350Hz
(c) 400Hz(f) 400Hz (32℃)
(d) 500Hz(g) 500Hz (32℃)
(e) 1000Hz

図2.Right Channel 波形の例;(a)-(e) 14℃, (f), (g) 32℃

図1とは反対の波形の上側が歪みますが,針の変位は同じ向きになります(ステレオ・レコードのカッティングは左右逆相になっている).図1よりまし(ビリつくのは約 400Hz-950Hz)なのはインサイドフォース・キャンセラーの効き過ぎ?なお,(d), (g) の波形の下側が飽和しているのは,MC 入力にしていたためと思われます(M-20 の出力電圧は 2.8mV.STR-100 の 500Hz の EQ 出力は 1kHz に対して +2.6dB と最大になる).
(a) Left 350Hz(b) Left 400Hz(c) Left 1000Hz
(d) Right 400Hz(e) Right 500Hz

図3.針圧 2.5g(最大値)のときの波形の例 (12℃)

図1,2の対応する波形(14℃)はすべて歪んでいましたが,2.5g に増やすと (b) 以外はビリつきません.(b) は図1よりましですがビリつきは残ります(Left のみ約 400Hz-850Hz でビリつく).

他の SATIN でも試してみましたところ,M-117E (1.5g) は低温でも正常でしたが,M-21B (1.25g) では M-20 と同様な現象(波形と温度)を確認しました.M-21B はサブシステムで 50 時間程度しか使っていないので,中古の M-20 が不良品とも思えないのですが….後日,他のプレーヤ(リニアトラッキング・バイオトレーサー)でも(耳で聴いて)試してみましたが,必ず再現しますので,諸調整やアームの問題ではないと思います.また,M-18BX (1.2g), M-14LE (1.5g) も(18℃で聴いて)ビリつきませんでした.M-21P (0.8g) はテストレコードの反りの影響をもろに受け(M-21P のみアームは AR-1S ですが軽針圧のため),上図よりひどい歪み波形も混じりますが,その周波数付近(Sweep Frequency なので)に正常な波形が必ず現われます(耳で聴くとレコードの回転に同期してビリつく箇所と正常な箇所が交互に現われる).1.2 g に増やすとほぼ問題ないのですが,温度に対する依存性はあるようです.

30 分ほど温めても 5 分程度でビリつき始めます(バイメタル温度計で 10℃ ほど低下します.逆に 10 分程度コタツに入れておけばビリつきがなくなります)ので,外気に触れやすい金属類(カンチレバーに関しては次段落,それと熱的にも結合しているアーマチュア?)が原因のようですが,気温の変化範囲程度で金属がそれほど影響を受けるとも思えません.中音域だけでビリつくのは,高音域ではテストレコードの振幅が小さくなり,低音域では速度が小さくなるからでしょうか? 波形からは,針が音溝に押されて(45°)上向きに動くときには(当然)コイルが音溝に追従しますが,その反対向き(コイル位置の微分波形である図では最初の 0 クロス点から半サイクルの間)には途中から追従しない(パンタグラフ型アーマチュアの弾性で戻るコイルの速度が遅くなる)箇所があることになります.波形の問題の部分は直線的に変化していますので,コイル位置の軌跡は放物線となり,(アーマチュアの弾性がなくなり?重力による)自由落下運動しているように思えます.ちなみに,ピーク(折れ曲がっている)の前後では正常な正弦波より絶対値が大きい,すなわちピークの少し前の直線部分で正弦波とクロスしています(面積が正弦波と同じになる).よく言われているグリース説でも,これらの現象をすべてうまく説明できないように思います(例えば,30 分も温めれば,熱容量の大きいマグネット・ポールピース・ヨークなども十分に温まっていると思われますので,内部のグリースが 5 分程度で冷めるとは考えにくい).

M-20 に 117-NE(M-117E の針)を付けてみましたが,同じようにビリつきますので M-20 本体に問題があることになります(前段落では当初,カンチレバーも候補としていました).交換針の注意書に「交換針とカートリッジの結合部分は、カートリッジの方が金属で硬度が高く、針の方はプラスチックで作られており、交換針の方が僅かに削られることによって、1mm の10万分の1のガタツキも出ないように設計されています。無意味な脱着は、やめましょう。」と記載されていますので,ほんとうは S-20(M-20 の針)を脱着したくなかったのですが,ビリつき問題のある中古ですから.なお,S-20 と 117-NE は完全互換ではないと思いますが,経緯からして,ビリつきはそのためではないと考えられます.また,117-NE は現用の針ではなく,300 時間以上使って交換した使用済の針ですが,ビリつきは磨耗のためでもないでしょう.(10/12/14)

最高気温 25.0℃と 27.1℃の日(室温は 22℃と 24℃)M-21B と M-20 で音楽を聴いてみました.いずれも推奨針圧では時々ビリつき,最大値でもたまに少しビリつく感じがあります.リニアトラッキング・プレーヤは発熱が結構あり,ダストカバーを閉めておくと 30℃になります.1時間ほど聴いていますと推奨値でもほぼビリつくこともなくなりました.テストレコードで確認しても(耳で聴いて)ビリつきません.

温度とビリつきに関して,塚本社長の息子さんから,コメントをいただきました.

ちなみに,M-20 の針の使用時間は少ないようです.塚本社長から伺った針先の磨耗度の検査方法は,針先に左右(センタースピンドルの方向)から光を当て,針先の 45°カット面で反射した光を顕微鏡で見ます(通常の使用状態と上下逆にカートリッジを置き,針先の尖塔を上方から見る.塚本社長直筆の説明図). また,ラインコンタクト針は楕円針より接触面積がかなり大きいのに,SATIN カートリッジの取扱説明書では針の耐用時間が同じになっているのは何故か,と塚本社長に質問した事がありました.お答えは,磨耗によって再生音に影響を与えるまで各々の形状が変化する耐用時間は同程度,というような内容でした.

ここの内容は M-117/M-18 のページの最後へ移動 (1/11/12)

このページに寄せていただきました大浦様の記事と,ポピュラー・レコードのビリつきは針圧増加で解消(正常な M-21 の場合).

大阪日本橋の江口電器さん(中古オーディオ店)が,サテンを褒めちぎっておられました.M-21 が永年の使用でへたり,なんと M6-45 をお使いですが,M-15 を探しておられました(2004年末).M-21 は長期間使用していないとグリースが硬化し音が悪くなるが,M-15 は構造的に問題ないとのお話でした.一応,上記の結果と合致します(ビリつき以前に音が悪くなるそうで,どこが構造的に異なってグリースが硬化しても問題にならないのか,よくわかりませんでしたが).しかし,大浦様の M-21 は「2003年8月に入手したもので、《中略》未開封の製品でしたが、約20年未使用のままだった筈なのに音質面では全く異常を感じない」とのことです.

寄贈していただきました VC-8E (SATIN OEM) のビリつきも調べてみました.
針圧 1.5g では,反りの影響で歪む箇所が周期的に現れますが,それ以外はきれいな正弦波で,2.5g にすると常に正弦波です.1.5g のビリつきは温度を上げてもとれず,右チャンネルは 1.5g でもビリつきません(リニアトラッキングなのでインサイドフォース・キャンセラーの効き過ぎではない.1.2g にすると少しビリつく.左は 2.2g でも少しビリつきが残る).歪み波形は M-20 とは異なり(M-20 と反対側が歪むのは,単に極性が逆?),低音域でも歪みます.
(a) 100Hz
(b) 102Hz

図4.VC-8E Left Channel 波形の例(Sweep Frequency なので周波数は異なるが,歪むのはそのためではない)

この項を始めてから4年半後の 2008 年 11 月初旬(室温 20℃),カッティング・レベルの高い EP 盤を聴いてみましたが,M-21P も劣化してきたのか,けっこうビリつきます(1.8g でもビリつきは残りますが,30℃程度まで暖めれば 0.8g でもビリつかず,また,カッティング・レベルや波形の問題だと思いますが,LP などではそれほどでもありません).M-21B はそれより酷いのですが,やはり M-18BX と M-15LE (1.2g) はまったくビリつきませんので,M-21 シリーズ(M-20 も含む)に特有の問題があるように思います.M-21 シリーズが M-18BX(や M-117E, M-15LE, M-14LE など)と大きく異なる点は「ダブルパラレルダンピング」ですので,あくまでも想像にすぎないのですが,それに関係する部分の経年変化がビリつきの原因で,温度変化(上昇時)が経年変化を相殺する方向に働いているのかもしれません.その場合,ダンピングが効き過ぎていると考えられますので,(機構的には異なりますが)電磁制動をかける抵抗(100Ω)を外してみました(47kΩ)が,やはりビリつきます.また,音楽(テストレコードでなく)を聴くと,たいへん耳障りな種類のビリつきで,針圧不足や調整不良の場合のビリつきとは質的に異なるように思います.いずれにしても,プレーヤのダストカバーを閉めて 60W の白熱電球を入れておけば,30℃を超えますので,針圧を増やすよりも確実です.


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