M-11, M-11Eヘッドフォン近代博物館-別館

M-11 の解説文をオーディオ魅入良様よりいただきました(26 Sep 2010):
(オーディオ魅入良様からは M3-45 の構造図もいただきました.)
これぞカートリッジと言う元祖「ウエストレックス」と並んで掲載されているサテン・カートリッジの図も添付しておきます。
電子展望の発行は、昭和44年5月20日となっています。
編集人・編集長は北村 俊一氏、執筆者は山本武夫、根本三男、唐沢裕東、本間公康、寺田淳男の各氏で電子展望編となっています。
サテン M-11/E
 サテンシリーズ・カートリッジは,再生機器は入力と
してのインフォメーションを何ものをも付け加えず,か
つ取り落さずに出力として他に伝達する情報機器である
べきだというサテン独自の思想のもとに,近来とみにい
われるようになったローレベルでのリニアリティはもち
ろんのこと,音色を決定づけるに最も重要なファクタで
ある音響情報の微細構造,すなわち通常レベルに重畳し
た微小な変動に対するレスポンスのリニアリティにも留
意して設計されたカートリッジである。上記を具現すべ
く,サテンシリーズ・カートリッジすべてには種々の工
夫が実施されているが,そのうちの代表的製品である
M-11/E について述べる。
[図 5.6 サテン M-11 の構造図]
 カートリッジにはまず出力電圧が高いことが要求され
る。これは,出力電圧が低すぎると,アンプ初段の音色
雑音歪により,カートリッジが伝達した微細構造が大き
くマスキングされ,変形されてしまうからである。しか
し高出力電圧を得るために磁性体を使用するのでは,そ
の磁性体内部での磁化が通常レベルでの微小な変動には
応答しないので,微細構造が変形されてしまう。そのた
めに M-11/E では,表面がアルマイト絶縁処理された
[図 5.7 サテン・スパイラルコイル]
厚み 0.0lmm,幅 0.lmm のアルミリボン線で,導体
占有率が大きくなるように三角形スパイラル状に巻いた
コイルを,強力なマグネットとスパイラルコイルを使用
することによって実現できる狭いギャップにより得られ
た 13000 ガウス以上の磁束密度を持った磁界内に介在さ
せ,磁性体を使用することなく4mVもの高出力電圧を
得ている。
 カンチレバーは,表面にアルマイト硬化処理を行なっ
た特殊軽合金を使用しており,他社製品と異なって,カ
ンチレバーの中央あたりからゆるくカーブがついていて,
針先がカンチレバーの基の部分での中心軸線上にくるよ
うになっており,また,ダイヤモンドチップの軸がカン
チレバーの中心軸と垂直になるようにチップが植え込ま
れている。カンチレバーの後端には,ベリリウム銅を使
用した,中央がくびれて細くなった形状の回動支点機構
が設けられている。これにより,カンチレバーの回動支
点がより厳密に1点に決定されている。また,同支点機
構にはカンチレバー保護機構が付随して,針先交換の際
の事故を未然に防ぎ,精密な内部構造を有するにもかか
わらず,オートチェンジャの使用にも耐える丈夫さを備
えている。
 カンチレバーの動きをコイルに伝えるアーマチュアに
は,材質の点から,内部でランダムなすべりを生じ微細
構造を変形してしまうジュラルミンを使わずに,ベリリ
ウム銅を使用しており,写真腐食によりミクロンのオー
ダに作られているので,左右のアンバランスは全くなく,
セパレーション特性も良い。また,コイル取付部分より
出ているレバーがカンチレバー・アーマチュアとリンク
機構を構成し,針先に対してコイルが勝手な運動をする
ことがなく,針先の動きは完全に正確にコイルに伝えら
れる。
[図 5.8 アーチ型ダンパ]
 アーマチュアを支えているアーチ型ダンパは,針圧に
よるダンパ内部の歪により微小な変動に対する応答があ
いまいになるのをさけるため,規定針圧時に内部歪が逆
方向にキャンセルされるようにアーチ型にセットされて
おり,動作時には無歪の状態におかれる。ちなみに,静
コンプライアンスが 30×l0-6cm/dyne のカートリッジに,
1.5gの針圧をかけたときの変位が 440μであるのに対し
て,レコード溝の平均振幅は5μ程度であり,それによ
る歪は無視できる。
 M-11/Eの他の大きな特長は,ムービングコイル型で
あるにもかかわらず,針交換が容易にできることである。
交換針にはグリップがついて,子供にも容易に針交換が
でき,また,カートリッジ本体にはアーマチュアガード
が装置されているため,針交換の際の事故はありえない。
一般に問題にされる振動系の経年変化は,M-11/Eにお
いては材質の面で解決されており,針交換では消耗部分
のみが交換される。M-11/Eは以上の数々の特徴を有す
るが,それにより特性が犠牲になるといったことのない
カートリッジである。
[図 5.9 サテンM-11/E周波数特性]
2010年10月20日掲載
参考文献:電子展望別冊
『最新ピックアップカートリッジ・ハンドブック』
pp.73-74,誠文堂新光社,1969
(ブラウザで見やすいようにレイアウトを変更しました.)

「無線と実験」1967 年 11 月号の新製品紹介欄(見やすいようにレイアウトを変更)
サテン M-11, M-11E

鉄心を持たないでなお高出力を供給するスパイラル・コイル型を維持して,機構,材質を全く一新した新製品で,コンプライアンスが従来の2倍,過渡特性の改善,スクラッチ・ノイズの激減,交換針にグリップをつけて着脱を簡単確実にした.周波数特性,クロストーク,方形波特性の向上とバラツキがなくなった.あらゆる装置で使用して充実した中音域と力強い低音を再生できるようになった,などが改良点.

針先半径:M-11E 0.2 x 0.8 ミル楕円
     M-11  0.5, 0.7 ミル丸
 
混変調歪:400 c/s : 4 kc, 200 c/s : 2 kc
     ともに +18 dB まで 5 % 以下(水平)
インピーダンス:10 〜 20,000 c/s で純抵抗がほぼ 40 Ω 針圧:0.75 〜 4.00 g 最適値 2 g
負荷インピーダンス範囲:20 〜 50 kΩ コンプライアンス:15 x 10 -6 cm/dyne
周波数範囲:5 〜 25,000 c/s +1 dB (12 kc) -3 dB (25 kc) 出力電圧:4 mV ±2 dB, 50 mm/sec RMS
CBS STR-120 にて,
クロストーク:-30 dB 以下 (1 kc), -20 dB 以下 (12 kc)
自重:14.5 g
定価:M-11 ¥11,900, M-11E ¥14,000
「スクラッチ・ノイズの激減」とありますが,藤野様より M-11 にはスクラッチ・ノイズが小さくなるような仕掛けがあるというお話をいただき,京都府立図書館で調査してきました(オーディオ雑誌では「無線と実験」だけが永年保存されています).本頁冒頭のリンク「サテン SATIN M-11/E カートリッジ」に掲載されている「無口」をうたった広告は,その仕掛けに関係するようです.また,サテン satinM-11について(私のサイトのリンク集にある「ようこそレコードと音楽&金田式DCアンプの世界に」内)に掲載されているカンチレバーに,その仕掛けがあるそうですが,私の M-11(1976 年に「無線と実験」売買欄で本体のみ中古入手)のカンチレバーでは形も色もそれほど明確ではなく,どちらかと言えば,カンチレバーが部分的に黄土色に薄く変色しているように見え(塗料には見えない),支点側に少し離れた所にもあります.
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