れ以下の力では円錐と球は完全に一体に固定されているものと見な
されます。だからアームのシェルは全く揺れません。
実際にはもう一つのサイドにある鋼球の静止摩擦力0.0158gが必要に
なり、計0.1143g以上の力が加わらないとアームは動きません。上下
動についても同様に計算でき、その値は0.132gです。
このようなAR−1シリーズの静上摩擦力による制動は、オイルダ
ンプや電磁制動のようにアームが動くことによって、即ちアームが
揺れることによって、はじめて制動力が生じるものと根本的に異な
り、針先に働く外力がある値以下のときはアームは全く揺れません。
AR−1シリーズでは他の一般のアームとは異なり、ウーハーが振
動的に大きくおどって揺れ動くことがなく、したがって音像が全く
ゆれない非常に安定した安心感のある再生が、楽しめます。
3 について
ガタツキが全く無い水平及び垂直回動機構がどのようにして実現さ
れたか。
二つの物体が触れながらも相互に軽く回動するためには、必らず
間隙が必要です。機械工作の精度を無限に小さくすることが出来
ないからです。超精密ボールベアリングといえども0.005mm(5μ)
ゆるみ即ち間隙があります。普通トーンアームの水平或いは垂直回
転軸にはそれぞれ2箇ずつのボールベアリングを使用します。そし
てこの2箇のボールベアリングは間隔をできるだけ離して使用する
のがよいのですが、トーンアームでは50mm以上離したものはほとん
どありません。1箇のベアリングについて0.005mmのすきまですから
2箇では0.01mmのすきまになることがあります。即ち50mmで0.01mm
ガタつくということです。ところが回転軸とピックアップの針先と
の距離は普通250mmぐらいありますので、そのガタツキは針先では5
倍に拡大されるので0.05mmになります。これはレコードに録音され
ている最大振幅50μmに相当します。このことから一般のボールベア
リングはトーンアームに使用すべきでないことを御理解していただ
けたと思います。
それでは一点支持はどうかといいますと、説明図のようにその回動
によって回動の中心が変化することと、更に決定的な欠陥は上下動
の軸方向が全く定まらないことです。ステレオの振動は音溝に直角
な面内の振動ですが、その面内の回転運動は全く不要有害であり、
トーンアームの上下回動軸は音溝の方向、即ちカートリッジのカン
チレバーの水平面投影方向に正確に直角に固定したものでなければ
なりません。この直角から少しでもずれた軸の回動をすれば必らず
カートリッジは回転振動をします。このことから一般の一点支持機
構は、トーンアームに使用すべきものでないことを御理解いただけ
たと思います。
ナイフエッジは上下回転軸の方向が定まらないという欠陥はありま
せんが、上下動のとき回動の中心が多少移動変化するという問題は
残ります。そして水平回動にはどうしてもボールベアリングの使用
をさけることができません。
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それでは一体どうすればよいのかというような全く途方にくれるよ
うなこの難問の為に、心ならずもサテンでトーンアームを製造する
ことができませんでした。
この一見解決不可能にみえた難問もとけてみれば非常にシンプルな
ものですから、説明図をみていただければ皆様に直ちになるほどと
街理解いただけると思います。2つの円錐面に挟まれた1箇のボー
ルは、それぞれの円錐面と円形の接触をします。このため回動の中
心は全く移動しません。サイドにもう1箇のボールがあり、円盤の
上をころがります。これら2種のボールの中心を結ぶ線が上下回動
の軸として固定されるのでカートリッジの軸にこれを正確に直角に
すればよいのです。それらの接触はトーンアームの自重でのってい
るだけなので、その間のすきまは完全に零です。2箇のボールとカ
ートリッジの針先の合計三点のみで支持されるのですから、その点
からも原理的に全くガタツキを生じません。
又、このサテンの開発した上下軸水平軸回動機構は、トーンアームに
不可欠のダンピング作用と音溝の変調により時々刻々変化するイン
サイドフォースを完璧に打消す作用とを同時に備えています。
4 について
金属材料のQを非振動的にまでさげるためには、少くとも金属材料
の重量と同量以上のダンプ材料を必要とします。ダンプ材料の比重
は普通1に近いものですから、少くとも金属材料の体積の数倍のダ
ンプ材が必要になります。パイプの表面と裏面をわずか厚さ数10μ
のアルマイトで硬化して、その中は元の金属のままというものや、
パイプの表面に無数のひびわれを作って損失を増すとか、金属の表
面にゴム質の1〜2mm厚のダンプ材をその片面だけに張りつけても
それらは総て気やすめ程度の効果しかありません。ダンプ材の層が
多少うすくとも、剛性を保つ構造材の間にピッタリとはさみ込んだ
真の意味のサンドイッチ構造にする必要があります。(第1図)
サテンAR−1シリーズのへッドシェルは、このような意味での完全
なサンドイッチ構造になっており、AR−1M、AR−1S、はア
ームパイプも完全なサンドイッチ構造になっています。(第2図)
そしてさらにIC−16(別カタログ参照)と同一のものが、AR−1
シリーズの総てに内蔵されております。
第1図・第2図
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