第 8 章 電圧崩壊に関する実験およびシミュレーション
 8.1 緒言
 8.2 電圧崩壊に関する実験
  8.2.1 系統構成
  8.2.2 測定値の処理法
  8.2.3 実験結果
 8.3 電圧崩壊に関するシミュレーション
  8.3.1 シミュレーションで用いる諸式
  8.3.2 シミュレーションで用いる諸定数
  8.3.3 慣性モーメントの測定
  8.3.4 シミュレーション結果
 8.4 実験系統に関する考察
  8.4.1 誘導機の定電力特性について
  8.4.2 平衡点とその安定性について
 8.5 結言
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8.1 緒言
 本章では,前章で測定した同期発電機を誘導電動機として用いた電圧崩壊に関する実験,およびシミュレーションについて説明する.また,第 3 部(第 7 章より本章)で述べた定数値と電圧崩壊に関する研究の成果をまとめる.
 まず,電圧崩壊に関する実験の結果を述べ,誘導機の定電力特性によって起こる電圧崩壊の仕組みについて述べる.次に,前章で測定した諸定数の値を用いて,実験に対応するシミュレーションの結果を述べ,実験結果と比較検討する.最後に,定電力負荷を含む電力系統の平衡点について考察する.

8.5 結言
 本章では,誘導電動機を含む電力系統に生じる電圧崩壊に関する実験およびシミュレーションについて説明し,定電力負荷を含む電力系統の平衡点について考察した.誘導電動機の定電力特性によって,電圧崩壊の起こることが,実験により明らかになった.Park の式に現われる諸定数の値を直接測定して行ったシミュレーションは,実験結果と定性的に一致したが,定量的には数 % 程度異なった.
 第 7 章より本章では,Park の式に現われる諸定数の値を直接測定し,実験とシミュレーションに基づく電圧崩壊現象に関する研究について説明してきた.以下に,本研究で得られた結果をまとめておく.
 (1) 各巻線のインダクタンスの値は,初透磁率範囲を超えて磁気飽和に至るまでの間において,巻線電流の値によってかなり変化した.また,回転子静止時の測定値は回転時の測定値よりも 1 % 程度小さくなり,回転子回転時には,電機子巻線間の相互インダクタンス,および界磁巻線間の相互インダクタンスの測定値が,計測に用いる 2 つの巻線の組み合わせによって異なった.このような現象は,回転子ないし固定子に発生するうず電流のためと考えられる.回転時の諸インダクタンスの測定値も,うず電流のため真の値より 1 % 程度小さいと考えられる.
 (2) 界磁電流に対する界磁電圧の変化は,特に小電流領域で直線ではなく,これより算出した界磁抵抗の値は,直流抵抗と微分抵抗の値が異なり,また,界磁電流の値に大きく依存して変化した.これは,界磁巻線を引き出すブラシの接触抵抗が,界磁電流の値によって変化するためであると考えられる.また,回転子の回転時と静止時,および回転子の静止状態によっても,界磁抵抗の値は大きく異なった.これは,ブラシの接触抵抗が,回転子静止時と回転時や,回転子の静止状態によって変化するためであると考えられる.
 (3) 実験系統における電圧崩壊は,誘導機の定有効電力特性によって,誘導機の端子電圧が低下すると,誘導機電流が増加するため,送電線の電圧降下が大きくなり,さらに端子電圧が低下するという過程が成長して起こると考えられる.非線形力学的には,サドル・ノード分岐であった.