同期発電機空隙磁束のオンライン計測と電力系統の動的挙動に関する基礎研究

目次
論文の概要
 同期発電機の物理的な動作は内部磁束によって正確に記述できるので,内部磁束の状態を把握すること,さらに,内部磁束に基づいた同期発電機の動作解析によって,同期発電機と電力系統全体との関係を考察することが,電力系統の安定度向上にとって重要である.しかしながら,内部磁束の状態を直接定量的に把握することは,端子電圧・電流などの計測に比べて困難であるので,物理的に電圧や電流で正確に規定される電力系統内の構成要素と同様に同期発電機が扱われている.
 本研究は,同期発電機の内部磁束に着目して行った一連の研究,発電機空隙部の磁束密度を直接計測する方法の具体化に関する考察,電力系統の電圧異常現象・電圧崩壊現象に関する計算機シミュレーションに基づいた非線形力学的な考察,およびシミュレーションで用いる定数値と電圧崩壊現象に関する実験に基づいた考察よりなる.
 はじめに,同期発電機の空隙磁束密度分布の測定原理を示し,稼働時において空隙磁束密度を直視できるオンライン計測装置として実現する方法を示した.さらに,試作した装置を用いて,さまざまな負荷を担って動作している供試発電機の空隙磁束密度を計測し,従来の測定器では直接得ることのできない負荷時の内部誘導起電力などを算出し,供試発電機の動作特性を明らかにした.
 次に,同期発電機の内部磁束に基づく Park の式を用いて,誘導機と定電力負荷よりなる非線形負荷を含む電力系統モデルを記述する諸方程式を導出した.その電力系統に対して計算機シミュレーションを行い,さまざまな分岐やアトラクタが存在することを示した.さらに,定電力負荷の無効電力を増加したときに起こる電圧崩壊の原因は,カオス的アトラクタが不安定周期解に接触して起こるブルー・スカイ分岐であることを指摘した.電圧崩壊の原因を不安定周期解による大域分岐と特定した例は,筆者の知る限り本研究をおいて他にない.
 次に,同期発電機の諸巻線について,抵抗とインダクタンスの値を直接測定し,その測定条件に対する依存性を明らかにすることにより,従来知られている以上に諸定数の値が変化することを指摘した.また,この供試発電機を用いて電圧崩壊現象に関する実験を行い,測定した諸定数の値を用いて行った計算機シミュレーションの結果と実験結果を比較・検討し,定電力負荷によって起こる電圧崩壊の仕組みを明らかにした.
 本研究で得られた結果は,同期発電機の動作の本質的理解,および電力系統に生じる諸現象の本質的理解を実証的に推進するものであるとともに,空隙磁束を考慮した同期発電機制御方法の開発を新たに提起し,また,計算機シミュレーションにおいて,近似モデルと定数値に関する問題を従来以上に提起するものである.
京都大学大学院工学研究科電気工学科(旧)上田研究室
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